……あー、これで録音できてるのかな。まあ、こんな状況で後世にまで残るとは思えないが。死ぬ前の思い出残しだ。構いやしねえ。

この研究所は破棄される。数百人の被検体と数十人の研究者を道連れにして、全部爆破してなかったことにしちまおうって奴だ。魔神も蛮族もすぐそこまで来ているし、逃げる暇も無いな。この判断は英断だと思う。所長はまだ若いってのに頭下げて、皆にどうか死んでくださいって頼んでたな。暴れる奴も居たが、だいたいは受け入れた。俺たちの研究が魔神の手に渡ったらどうなるかなんて、考えたくもないからな。

……研究。ああそうだPhaethonの研究。これが闇に葬り去られることだけは、魔神に感謝しなきゃいけないかもな。

あれは人を進化させる神の叡智なんかじゃなかったんだ。分かりきってた筈なのに、俺たちはそれに気が付くのが遅すぎた。救いだったのは、俺たちがどうしようもない馬鹿で、あの隕石が何なのか全く理解できなかったこと。だけど、俺たちは研究しちまった。いや、研究させられちまった。

Phaethonがまん延した先に何が起こるのか分からない。だけど、俺たちはあれが広がる為の媒介としてすっかり踊らされてたってわけだ。気付いたときにはもう手遅れで、あれはもうこの国に広まっちまった。Keraunosを使ってももう完全に処理するのは難しいだろうな。

あーいや、もしこの国が一人の生存者も残さず滅んだら、もしかしたら消えてくれるかもな。俺としてはそれを願いたいばかりだ。

……この音声記録を聞いている奴が居たら頼みたい。

仮に何かしらの資料が残っていても、全部即座に破棄してくれ。Heliosが残ってたら、あんたがHelios-1に罹患しちまう前に破壊してくれ。後生だ。

人族と蛮族と魔神。どれが勝つのか分かりゃしない世の中でも、きっとどれだってPhaethonよりはマシさ。

……タイムカウントが聞こえてきた。執行前の死刑囚ってのはこんな気分なのかね。怖いのに、全然身体が怖がっちゃくれねえ。泣きべそかいてるよりは良いかもしれないけどさ。クソっ、死にたくねえなあ。被検体は村作って暮らしてたけど、俺は女と寝たことだって数えるくらいしかねえんだぜ。

死にたくねえよ。死にたくねえけど、あえて最後にこう言うわ。

人の未来に、幸多からんことを。